あなたに捧ぐ潮風のうた
「縁談?」
重衡の言葉を聞き、上西門院は首を傾げた。
急に不穏な話になったと上西門院始め女房らが当の小宰相よりも遥かに不安そうな表情を浮かべて通盛を見つめた。
彼女達の視線に晒された通盛は、気まずいような顔をしながら「はい」と頷いた。
「……そろそろ身を固めろと周りがうるさいものですから……。ただ、私には一方的にではありますがお慕いしている方がいますので、お断りをしているところです」
通盛の少し照れている口振りに、上西門院は驚いた顔をしながらも安心したように笑った。
お慕いしている人、それが誰のことを指しているのか、その場にいる者たちは誰もが分かった。
勿論、小宰相のことである。
本人を目の前にして臆面もなく真っ直ぐな言葉を言うものだと赤面する女房たちも見られた。
一番恥ずかしい思いをしているのは自分だ、と小宰相も思わず雰囲気に呑まれ、俯きながら顔を赤くした。