あなたに捧ぐ潮風のうた
それから、上西門院は出仕の無い日に呼び出した二人に謝りつつも、せめてゆっくりと過ごしていくようにと告げた。
女房達は、普段から女院の御所に勤めているために、通常はあまりお目にかかれない平家公達に強い興味を抱いているようで、上西門院の話が終わるとすぐさま彼らに話しかけようと様子をうかがっている。
「小宰相さま」
横から安芸が耳打ちをした。
「先程のご様子を拝見して僭越ながら一つ思ったことがあるのですが、実は小宰相さまも満更でも無いのでは? 重衡様よりも通盛様が気になっていらっしゃるご様子ですし、実際にお話をしてみる良い機会ですよ」
なんということを言うのだ、と小宰相は目を剥いたが、安芸の言葉に対して咄嗟に否定の言葉が出てこなかった。
自分が赤くなったのは急に通盛が変なことを口走ったからだと反論することも出来たはずなのに、通盛の視線がこちらに向けられていると気づいた瞬間から、全ての言葉が容易く吹き飛んだ。
「小宰相殿」
その低く優しい声音が自分の名を紡いだ。