あなたに捧ぐ潮風のうた
なんという甘い声と切ない目で自分の名前を呼ぶのだろうか。
小宰相は周りの目が自分たちを見つめていることに気づき、恥ずかしさのあまりくらくらとした。
そのまま居ても立っても居られなくなり、彼らに背中を向けて女房部屋に走る。
背後から小宰相を呼び止める安芸の声が聞こえた気がしたが、それらは全て無視した。
女房部屋に走りながら小宰相は訳の分からない感情に苛まれていた。
(何故他人の面前であのような……)
通盛の表情を思い出し、顔が熱くなった。
(あのような……)
……一人の女に心底惚れているという顔をするのだろうか。
上西門院を含め他の女房達に筒抜けになっていることも厭わず、通盛は自分の思いを隠そうともしない。
恥ずかしいと思うことはないのだろうか、と小宰相は大声で本人に問いただしてやりたい気持ちになった。
辿り着いた女房部屋に一人座り込んでいると、戸を叩くものがいた。小宰相を追いかけてきた誰かだろうか。