あなたに捧ぐ潮風のうた
「貴女と再び直接話がしたいと思っていた」
通盛は静かな語り口で続けた。
「貴女のことをもっと知りたい。……だからせめて返事が欲しいと思うのはおこがましいだろうか。一言でも貴女の書いた文を頂けたならどれほど嬉しいだろうと、私は愚かな男だから無駄だと思っても期待してしまうんだ」
「……わたくしは和歌があまり得意ではありませんから、和歌を頂いても返せないのです。考えているうちに次の文を頂いている状況ですから」
小宰相がそう返事をすると、通盛は明らかに肩を落とした。
あまりに落胆したその様子が可哀想で、気付けば彼を慰めるような言葉を続けていた。
「……もし、通盛様が京ではない何処か行かれることがあれば、その際はその道中について記した文を下さいませ。きっと夢中になって読んで返事をしたためると思いますわ」
「貴女はそういった話が好きなのか」
「はい。きっと自分がその場所に行ったように感じて楽しいと感じると思います」
……嘘はついていない。
小宰相は各地について記した書物を読むことを好んでおり、和歌を送られることよりもきっと心が躍るに違いない。
通盛は顎に手を当てて考えていたが、「成る程」と行った様子で頷き、嬉しそうに破顔した。
「……私は国司も務めているから時には自分の目と足で訪れる機会もある。福原には別荘もあって海も近い。少しはそう行った話ができるだろう」