あなたに捧ぐ潮風のうた

 この時期になると、人々は暖を求めて居間の炭櫃の周りに集まる。炭櫃や火鉢を取り囲みながら会話をするのも冬の楽しみである。

「ようやく戻ってきたね、通盛」

 通盛を見つけると笑顔でそう言ったのは従弟の重衡である。

 近頃の重衡は暇を見つけるとよく門脇家にやってくる。先日、蔵人頭(天皇家の家政管理責任者)に任命された重衡は、春宮亮と合わせて仕事が忙しく、仕事の愚痴を吐きに来るのである。

 年明け以降、まだ幼き言仁親王の周辺がやけに慌ただしくなってきたのは事実であり、やつれた重衡を見ると無下にもできず、付き合わされていた。

「確かに最近の忙しさと来たら……」

 通盛は炭櫃の前に座り込んでぼやいた。

 中宮亮である通盛もまた最近になって中宮の周りが騒がしくなってきていた。

 なぜ忙しいか。それは問うまでもない。

 重衡は唇を歪め、低い声で笑った。

「まあ、分からなくもないよ。父上がとんでもないことをやろうって言うんだからね」

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