あなたに捧ぐ潮風のうた
「とんでもないこと」と重衡は言ったが、たしかにそれは本当にとんでもないことであった。
それは、新帝即位である。
天皇の外祖父を目指した清盛によって、まだ幼子である言仁親王の周囲は途端に忙しくなった。
来たる即位の儀礼に向けて準備を進めているためである。
高倉天皇は院となり、今後は平家の「助言」の元で院政を行うことになる。
それと同時に院庁の人事も行う必要があり、平家は忙しく立ち働いているのである。
また、その中宮である徳子は、新帝の母妃(ぼこう)として幼き天皇を公私で支えることになり、中宮亮の仕事も今後は変わってくるだろう。
「いよいよ平家の血を継ぐ親王殿下が即位なされるのだな……」
重衡のしみじみとした呟きに通盛は頷いた。
娘を中宮とし、その子供が天皇として即位する。清盛が夢にまで見た光景であろう。
平家は天皇家の臣下として上り詰めるところまでいよいよ到達することになるのだから。
二月の末、言仁親王は高倉天皇から譲位によって位を引き継ぎ、安徳天皇と名前を改めて即位した。
外祖父の清盛を始めとした平家たちは、高倉院や安徳天皇、母后徳子を支える地位を占め、平家は未だかつてないほどの栄華を極めていた。
即位の礼を行う安徳天皇は、儀礼の間中は母后徳子の腕に抱かれており、誰もが嫌でも平家の力を思い知ることになった。