あなたに捧ぐ潮風のうた
五月下旬、出仕終わりで帰宅したばかりの通盛と教経は、父教盛から部屋に呼び出されていた。一体なんの用事であろうかと兄弟は顔を見合わせながら疑ったが、部屋の中で座して待っていた父は思いもよらないことを息子たちに伝えた。
「……父上、あまりに突然の話で……」
言葉を失っていた通盛がようやく声を絞り出すと、教盛も頭を抱えながら低く唸った。
「……ああ。我ら平家一門、福原への遷都を現実にするつもりは毛頭なかった。我ら兄弟が常々兄上に説得をしていたが、兄上はまるで聞く耳を持たない。それに、近頃は平家への反乱も絶えないから兄上のお気持ちも頑なになってしまわれた。もはやどうすることもできない」
それは、平安京から福原への遷都。
福原京を建造する計画であった。
平安京は、かの桓武天皇が都と定めて以来、数百年と続いてきた。今回の遷都計画は、その伝統を打ち破ることであり、清盛はすでに決心をして、心を変えるつもりはないという。
「……通盛、教経。六月に入れば直ぐに平城京を発ち、主上、上皇様、法皇様もお連れして福原の別邸に向かう。それまでに必要な準備や別れは済ませておくように」
父の言葉に、通盛は小宰相の顔が頭を過ぎった。