あなたに捧ぐ潮風のうた




「源氏を始めとした関東在地の武士たちが先の以仁王の令旨を奉じて挙兵したらしい。各地の平家派や平家の目代を襲って回っているそうだ」

 清盛の屋敷から召集を受けた父が帰ってくると、息子兄弟二人を呼んでそう伝えた。

 父の話を聞いていた教経は片眉を上げて「戦になりますか」と尋ね、父は眉間を押えて「ああ」と頷く。

「兄上が決心なされて追討軍を組織なされた。総大将は維盛で直ぐに出立すると聞いておる。主に兄上の子供、孫が出陣するからお前たちの出陣はない」

 出陣を期待していたのだろう、父の言葉に教経が落胆したようにため息を吐き、鼻を鳴らした。

「叔父上のご指名ですからきっと維盛殿で大丈夫なのでしょうね」

「副将には維盛の乳父で、多くの戦を経験した兄上の信頼の厚い部下が付いている。その者を信頼して、戦の経験を積ませようとしてのことだろう」

 光源氏とまで称される線の細い平家の麗しい公達が、戦においてどこまで功績を残せるのか、という教経の疑問には、通盛も全く同意だった。

 父の表情も優れなかったが、清盛の決定であれば何も言う事は出来ないのは、息子兄弟二人も理解していた。





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