あなたに捧ぐ潮風のうた



 孝子は手持ち無沙汰な心境で抱えていた琵琶を掻き鳴らした。

 乳母は集中力の欠ける孝子をちらりと見て「またか」という表情をしたが、何もいうことはなかった。

 楽器や和歌、香などの知識を身につけて初めて、一人前の美しい姫として尊敬を集める。

 乳母の呉葉(くれは)による厳しい指導のもと、孝子は教養ある女性となるために、手始めとして琵琶の演奏を習っていた。

 しかしながら、その稽古の成果はというと、主人思いの呉葉に思わずため息さえ吐かせてしまう有様であった。

 元来、孝子にとって、部屋に籠もって演奏をしているよりは、呉葉が読み聞かせてくれる古今の書物や物語の方が、はるかに心踊らせてくれる。

 孝子は好奇心が旺盛で幼い頃から外の世界に憧れを抱いていた。

< 2 / 265 >

この作品をシェア

pagetop