あなたに捧ぐ潮風のうた
婚姻も、その責任の一つである。
それ故、孝子はその運命を受け入れなくてはならない。
「まだ姫様が気になさることではありませぬ。母子が似るのは当たり前のこと、姫様に何の非がございましょうか」
呉葉は未だ怒りが冷めやらぬらしい。
足元まで伸びた漆の髪が、怒りでざわめいているようだ。
拳を堅く握り締め、主人の去っていった方に険しい視線を向ける。
呉葉という乳母は、大人しく優しげな印象を受けるが、実際、気が強く豪胆である。
我が子同然に育てた孝子を何よりも大切に思うが故に、本来の主人である父憲方をも恐れずに口を開く。
当初は父が呉葉を不快に思い、彼女を罰するのではないか、と不安に思うこともあった。
だが、娘を顧みない父もやはり思うことはあるだろう、子育てを一任した呉葉を罰することはただの一度もなかった。