あなたに捧ぐ潮風のうた







 旧都はとても物静かだった。人々はみな新都に希望を託して旧都から去っていってしまった。官位を求める人が旧都に残っていても仕方がないからだ。
 
 季節を追うごとに活気を失い、手入れもされずに寂れていく旧都の有様を見て、残された人々は昔の都を思い浮かべながら心を痛めていた。

 小宰相は実家で通盛から送られてきた文を読んでいた。

 何もかもが騒がしく日々目まぐるしく景色が変わる新都の様子、穏やかだった旧都を懐かしむ郷愁、貴女に一目会いたいという恋しい思い。

 旧都の寂れていく様、継室の屋敷に留まる父憲方は益々体調を崩してもう余命幾ばくかという事。全ては移り行くものだと分かっていても、何もかもが虚しく思えてならない。

 主人である上西門院曰く、平家は全国で頻発する在地の武士たちが絶え間なく反乱を起こしているため、その追討で忙しいという。

 恐ろしい世の中になった、と女房たちは身を寄せ合って囁き合ったものだが、通盛はそのことについて一切文の中で触れていなかった。

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