あなたに捧ぐ潮風のうた
早く通盛に会ってあの陽だまりのような笑顔を見たいと思ってしまう自分は、やはり寂しいのだろうか、あるいは恋しいのだろうか。
あの日、遷都が決行される幾日か前、通盛が屋敷を訪ねてきたことがあった。彼の姿を認めたときに思いもかけず「うれしい」と思った自分がいた。
朴訥で平凡に見える男だが、文に書かれている言葉は美しく、思いを隠すことはない。彼はあまりに不器用で親切だった。
素直で落ち着いた性格は心地よく接していて気楽でもあり、甘えたくなる優しさが常にある。
普段は毒の無い顔をしていても、時折平家一門の顔を見せてちくりと小宰相の胸を刺していく。それがまた抜けない針となって小宰相を捕らえる。
あの夜、通盛の腕に抱き締められたとき、自分でも不思議なほど胸に様々な思いがこみ上げてきて「傍にいてほしい」と彼を引き留めた。
それが己の素直な胸の内なのだろう。
彼の帰りを待とうと心に決めて、小宰相は返事のために筆を取った。