あなたに捧ぐ潮風のうた
秋のある日、旧都にいくつかの知らせが届いた。
安徳天皇の大嘗会が旧都で行われることになること、平家が関東における反乱追討の戦で敗北を喫したということ。そして、敗北に激怒した清盛が福原遷都の計画を断念して都に戻り、ついに意を反平家との本格的な戦いに備えると言うこと。
上西門院の御所に出仕していた小宰相も、知らせを受けた上西門院の口からそれを耳にした。
「遷都を断念するとは、いよいよ入道様もついに本気になられたようですね」
隣にいた友人の安芸が小宰相に耳打ちする。
確かに、と小宰相は頷いた。
「でも、これでようやく都が再び賑やかになるというものです。小宰相様も再び通盛様にお会いできるかもしれませんね」
小さな声で何やら本人よりも嬉しそうに笑いながら言う安芸に対して、小宰相は赤くなる顔を隠しながら「別に少しも嬉しくなんてないわ。待ってなんかいないもの」と顔を俯けた。
安芸は小宰相の言葉を全く信じていない顔をして「いいなあ、通盛様は。小宰相様にそんなに思われていて」と笑っていた。