あなたに捧ぐ潮風のうた
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平重衡率いる南都が焼き討ちに遭ったという報せは小宰相も耳にしていた。
南都に侵攻した平家軍が放った火は、その日の強風によって予想を超える範囲まで延焼し、古い建物を悉く焼いた。数多くの古く貴重な仏像までも焼けてしまったという。
南都や北嶺の僧兵と言えば、かねてより強訴(ごうそ)の常連であり、朝廷に対して神木や神輿を盾に極めて強硬な態度で要求をすることで知られる。
とはいえ、放火など許されるはずもなく、平家の放火は天すら恐れぬ悪行、まさしく末法の世である。
(なんと恐ろしいことを……)
そして、聞くところによれば、通盛も副将として軍を率いる立場にあったという。あのような穏やかな男が副将として南都と戦ったなど、到底信じられない気持ちだった。
小宰相はただ唇を噛み締めるしかなかった。
その一件後、通盛から届けられた文には、そのようなことは一切記されていなかった。当然だろう。女に届ける文に「南都を焼いた」など書き記す男がいるはずもない。
(通盛様を思うには、好ましいと思う気持ちでは足りないのね)
それはきっと「覚悟」というものだ。
平家の恐ろしい一面を再認識すると同時に、小宰相は通盛に対してより一層複雑な思いを抱くようになった。