あなたに捧ぐ潮風のうた
平家の命運は南都を焼き払い、仏敵となったことで尽きたと言うものたちの言葉通り、平家は一門を支える重要な人物を立て続けに二人失った。
一人は高倉院である。先の福原行幸時から体調不良を訴えていたが、年明け間も無く、二十という若さで崩御した。
そして、人々の悲しみも癒えぬうち、一門を支えるもう一つの柱である清盛もこの世を去った。
この世を去ったのは平家の者達ばかりではなかった。
小宰相は菩提寺から帰宅した後、陽が沈む西の空に向かって手を合わせた。西方の浄土に生まれ変わった父のために。
「……姫様」
乳母の呉葉が小宰相を呼んだ。心配しているのだろう。小宰相は手を合わせてその場から動こうとしなかった。
父は継室の家族が看取り、丁重に弔った。
小宰相は父の最期には会えなかったが、時折、父の菩提寺を訪れて手を合わせている。
死は誰にでも平等に訪れるもの。父とは仲の良い親子であったとは言えないが、血を分け、一緒に時を過ごした時間を思えば、悲しくないわけがない。