あなたに捧ぐ潮風のうた


 人はいつか必ず死んでしまうもの。

 分かっていても、小宰相は戦場に向かった通盛のことを考えずにはいられなかった。

 現在、平家は頻発する反乱を鎮圧するため、全国に兵を派遣している。その総大将や副将に平家一門の者が任命されているのである。

 通盛は越前や能登など北陸の国守であるため、北陸における反乱は主に通盛が大将として派遣されている。休む暇もないようで、最近はほとんど都にはいないという。

(最後の手紙が来てからすでに一月は経っているかしら……)

 一月前、戦況は芳しくないが貴女にまた会うまでは決して死ねない、という言葉と共に一首の和歌と手紙が送られてきた。戦場にいるというのに優雅ななものだと思わずくすりと笑ったものだった。

(……手紙が来ないと不安になってしまう)

 通盛からの手紙を待ちわびるようになってしまったのは、一体いつのころからだろう。

 大将がそう易々と討ち取られるとは思えないが、無事であると知れたらどんなに安心するだろうか。
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