あなたに捧ぐ潮風のうた
「姫様」
あるよく晴れた日の午後、部屋の外から義則の声が聞こえた。
「お手紙をお届けにあがりました」
小宰相はその言葉に思わず息を呑んだ。自分に手紙を書いて寄越すなど彼しかいない。ついに通盛からの手紙が届いたのだろう。
今は呉葉が席を外していたため、小宰相は義則を部屋に入れて手紙を受け取った。
急いで開いて差し出しを改めると、それはやはり戦地にいる彼からの手紙であった。戦地から近いうちに引き揚げるという知らせだった。
安堵と嬉しさがじんわりと心に染みていく。手紙を胸に抱き、「ありがとう」と笑顔で義則に礼を言った。
手紙を渡し終えて用事が済んだはずの義則は、何故か退出することもなく小宰相の顔を臆面もなく真っ直ぐに見つめていた。
「義則?」
怪訝に思って尋ねると、義則は「私の質問をひとつお答えしていただけませんか」と静かに語りかけてきた。
小宰相は怪しみながらも頷き、座るように言った。それでも彼はその場から動かなかった。
その端正な顔に浮かんだ表情は、どこか鬼気迫るような、あるいは何か大切な失せ物を探し求めているような、形容しがたいものだった。
「その方を愛してるのですか」
その口から飛び出た問いは予想しなかったものだった。
一体、突然何を言い出すのだろう。小宰相は眉を寄せて義則を見つめた。
義則は困惑を露わにした小宰相を見下ろして、話を続ける。