あなたに捧ぐ潮風のうた
通盛は手紙に書かれていた言葉通り、帰京した。寒空から雪が降り積もる冬のことであった。
越前守として、そして平家軍の副将として北陸の鎮圧にあたっていたという通盛は、帰京して間もなく小宰相の屋敷に顔を出した。
彼の疲労の色は濃いものだった。
部屋に迎え入れながら訳を聞くと、通盛は苦い笑みを浮かべながら語り出した。
越前国府は既に反乱軍に占拠されて手遅れの状態であったという。越前国府を放棄して津留賀城まで退却したものの、援軍の派遣も間に合わずに源氏配下の者たちに再度敗れて津留賀城まで放棄をすることになった。地の利を生かした源氏一派に敗北を喫し、本格的な冬に突入する前に京まで退却した。山林を駆けて追手を逃れ、命の危険すら感じながら這う這うの体で逃れてきたという。
彼は珍しく戦時のことについて饒舌だった。
「このまま死んだら貴女にはもう二度と会えないと思うと、途端に死ぬのが怖くなったよ」
通盛は明るく笑いながら言ったが、あまりに恐ろしい話を聞いて小宰相は身を震わせた。
そして、彼が無事に帰京したことに再度深く安堵しながら、そのように恐ろしい経験をした後すぐに自分を訪ねてきた気持ちを嬉しく思った。
「ご無事でなによりでございます」
「ありがとう」
通盛は小宰相の言葉に穏やかな笑みを浮かべた。