あなたに捧ぐ潮風のうた
冬の冷たい風が御簾を揺らして部屋の中まで吹き抜けた。凍てつくような冷たさは小宰相の身体を芯から冷やそうとする。
その様子に気付いたのか、「寒くないか」と言って通盛が小宰相の震える肩をそっと抱いてくれる。暖かさを求めて小宰相は身体を預けた。
「……冬の景色も趣深いものですが、早く春になってほしいものです」
小宰相は部屋の中から庭を眺めながらそう言った。吹き荒れる吹雪は春の桜を思い出させる。明朝には雪が積もっていることだろう。
「どうして?」
通盛は首を傾げた。
「通盛様とまた桜を見たいからです」
そう笑顔で通盛を見上げると、小宰相の肩を抱く通盛の腕に力が入った気がした。
不思議に思って通盛を見つめると、彼は表情を翳らせ、目を伏せていた。
「……暖かくなればまた戦が始まるだろうと聞いている。それに……わたしは戦とはいえ大勢の人を殺めた。死後は六道巡りが決まっている男だ。……それでも本当に貴女はわたしが良いと言うのか」
通盛は珍しく弱気だった。いつも落ち着いた態度を崩さず、門脇家の嫡男として、そして戦の大将として堂々と振舞うことのできる通盛は、時折、どこか遠慮のような、自信なく窺うような様子で小宰相を見つめる。
小宰相は通盛を安心させるように笑った。
「……構いませぬ。その時はわたくしも共に参りますから。通盛様が見る景色……たとえ六道であっても同じ景色をわたくしに見せてくださいませ」
そう囁くと、通盛は深いため息と共に両腕を小宰相の背中に回して、強く抱き寄せた。
「……ありがとう。でも、毎日手を合わせるほど信心深い貴女が地獄に行くことなどあり得ない。同じ蓮の上に生まれ変わりたい、などというのは過ぎた望みなのだろう。だから、わたしの妻として、今生限りでもわたしと一緒に生きてくれないか」