あなたに捧ぐ潮風のうた
通盛の言葉に、小宰相は静かに頷いて目を瞑った。既に心も身体も預けると決めている。いつしかそう願うようになっていたのだから、何も迷いはなかった。
薄暗くなり、通盛は小宰相を閨の中に連れて行った。どの男も決して許したことのない場所だった。
覚悟はしていても、通盛のつけている深い香を吸うとにわかに心臓が騒ぎ始めた。頭がくらくらとして、抱きしめられたままの小宰相は身体が固まった。一方で、抱きしめられた時に感じた通盛の脈も随分と早くなっていた。
すでに何度も戦場に出た勇猛な男が、ひとりの女相手にこの上なく緊張しているようである。不恰好なのに、なぜかとても愛おしくて、小宰相は力を抜いて通盛を見つめた。
(……通盛様は美しい)
通盛はよく小宰相を褒めそやす代わりに、自身に辛い評価をつける。だが、それは周囲のあまりに容姿端麗な平家の公達との相対に過ぎないと小宰相は思っている。
常は穏やかな瞳は、今は熱っぽく夏の陽炎のように輝いていて、小宰相の心をかき乱す。
「……二人の時は、どうか孝子とお呼びください」
小宰相の言葉に通盛は少し驚いた顔をしていたが、すぐに優しい低い声で「孝子」と呼んだ。
「ずっとこうしていたかった」
通盛は静かに呟くと、通盛は小宰相の顎を持ち上げる。何事と思っていると視界が彼の顔で埋まった。口付けだった。小宰相は喜びと熱が全身に広がるのを感じながら通盛に応えた。
その夜は、朝まで身体に覚えた熱が引くことはなかった。