あなたに捧ぐ潮風のうた
通盛の腕を枕にして共寝し、眠くなるまで語らうのも楽しみの一つだった。
通盛はよく弟の話をした。弟は教経と言い、平家では異色の武人であるという。無愛想で仏頂面り、自分にも他人にも厳しく人を滅多に褒めない。昔は「兄上、兄上」と笑顔で慕ってきて可愛かったのに、と嘆く通盛を見ると、弟を大事に思う気持ちがよく伝わってきた。
「家族の仲がよろしいのですね」
無意識に口から出た言葉は、思った以上に棘を持っていて、小宰相は自分でも驚いた。
門脇家の兄弟だけではない、平家は一門を大切にしている。皆屋敷は六波羅に固まっており、血族の結束はとても強固だ。
小宰相はその兄弟の仲の良さが羨ましくもあった。家族の強い繋がりを持って育たなかったからだ。浮き雲のような父はふらりと外に家族を作る。母はこの世には居らず、兄弟もほとんど顔を知らない。
家族の愛、形。求めても手に入らなかったものが、当然のようにそこにあった。
なんと醜い嫉妬、浅ましい羨望だろう。
「孝子。貴女はわたしの大切な唯一の妻。大切な家族だと思っているよ」
通盛は直ぐに気付いて小宰相を見つめる。
「だから、貴女もわたしを家族だと思ってくれたら嬉しい。わたしを貴女の家族にしてほしい」
真っ直ぐな言葉。真摯な目。小宰相の萎縮した心を包み込む暖かさ。何故そのように優しいのだろうか、と小宰相は泣きたい気持ちになった。
……本当に小宰相にとって陽だまりのような人だ。