あなたに捧ぐ潮風のうた


 談笑しているときでも、教育係としての呉葉は油断しない。彼女は目ざとく孝子の口元を指し示す。

「──姫様。立派な女房たるもの、口元は隠しなさって笑うことです。殿方にはしたないお姿を見られてしまいますよ」

「そうだったわ。気を付けなくては」

 孝子ははっとして口元を隠す。

 無意識で出来るほど上品で雅やかな所作がまど身に染み付いていない。裳着の儀式以前は、気を使う相手などいなかったのだから無理もない……はずだ。

 呉葉は真剣な顔で頷いた。

「宮中では如何なるときも油断してはなりません。女子を覗き見るのがお好きな殿方は、ごまんといらっしゃるのです」

「まあ……」

 今度こそ驚いた口元を袖で隠す。

「ほら、あそこにも」

 孝子は首を傾げ、呉葉が指し示した部屋の入り口を見た。

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