あなたに捧ぐ潮風のうた
平家軍はしばらく山中に留まり、義仲軍の出方を見るために待った。
平家打倒を掲げているのだ、彼らは必ず動きを見せるだろう。
平家も反乱軍の鎮圧が目的である以上、両者は必ずぶつかり合うはずだと通盛は思っていた。
だが、それから幾日経っても義仲軍の動きは鈍く、期待は裏切られた。
ここ志雄山周辺に、敵勢およそ三千余騎ほどの敵が集まり、通盛軍の動きを牽制するように構えているのは見張りによる報告に上がっていた。
だが、彼らはそれ以上の動きを一切見せない。
両者は睨み合いのまま膠着状態に陥っていた。
「仕掛けますか」
部下の滝口が進言したが、通盛は首を横に振り、その場に腰を下ろした。
「いや、ここで待つ。志雄山にいるのは義仲本隊ではないことから察するに、奴らの目的は我々を牽制してこの山に閉じ込める事にあるのだろう。思惑に嵌るのは癪だが、維盛殿の主力の動きがあるまで待つ」
維盛の主力軍は数の上で圧倒的に有利だ。
その主力軍が大きく動いてこそ、遊軍が活きるというもの。その為に軍を分けたのだから当然だ。
通盛の言葉に滝口は頷いた。