あなたに捧ぐ潮風のうた
「失態だ」
平家の現棟梁・宗盛がそう吐き捨てた。
倶利伽羅峠から敗走した維盛および通盛が帰京して間もない頃、平家の者は宗盛の屋敷に集められ、話し合いの場が設けられていた。
そこには北陸に参戦していた者たちも含まれ、北陸で大軍を失った責任を問われていた。
しかし、維盛はこの場にはいない。体調を崩し、気分がすぐれないからと邸宅で休んでいるという。心の問題もあるのだろう。
宗盛はため息を吐くばかりで維盛について何も言わなかった。
「……結果的に、平家は大軍を失った。そればかりか、各地の武士たちの信頼も失っただろう。今後、平家の呼びかけに呼応し、源氏に対抗することに賛同する武士たちが今後どれほどいるだろうか。都より東の武士たちは義仲や頼朝の活躍を間近で見ているのだから」
あまりに重苦しくもこの上なく的確な言葉に、一門の者は誰も返す言葉が無かった。
平家が今の地位を得たのは、清盛が他の対抗勢力に決して負けずに、政敵を打ち倒してきたからだ。
その圧倒的な強さによって、全国の武士たちは平家に従ってきた。
だが、今は平家を憎む後白河法皇と平家打倒を狙う源氏に対抗すべく、清盛が残した遺産に辛うじて縋りついているに過ぎない。
そのような平家に武士たちが従うだろうか。
これまで平家の世に不満を持っていたもの、不遇の立場にあったものは喜々として平家を打ち倒そうとするだろう。
今は、源氏が力をつけて不満を持つ在地の武士を取り込みながら、徐々に西へ西へと向かっている。
清盛がどれほど偉大だったのか、遺された者たちは思い知らされる気持ちだった。
「義仲がこの勢いのまま都まで攻めてくれば、平家は都を追われることになるかもしれぬ」
その言葉に平家の者たちの表情が硬いものになる。
「なんとしても阻止する必要がある。……だが、最早平家にその力があるのかどうか……」
それは平家の誰もが思う不安だった。