あなたに捧ぐ潮風のうた
「全く、棟梁殿はいつも苛立っているね」
ふうと重衡が屋敷を振り返って息を吐いた。うんざりとした表情だった。
結局、話し合いは解決を見ないまま終わった。これからのことについては不安ばかりだが、義仲の入京を阻むために全力を尽くす以外に他ないという意思は一致していることを確認して解散になった。
自分の屋敷に帰ろうとしていた通盛は、従兄弟の重衡に捕まって宗盛の屋敷の外で立ち話をしていた。
通盛は重衡の言葉に肩を竦めた。
「仕方ないだろう、平家が良くない状況にあるのは事実だ」
「確かに見事な負けっぷりだけど。批判するだけなら誰でもできるのにね。それに維盛を総大将にと言ったのは兄上だ。その責任は棚に上げてよく言う」
珍しく重衡は顔を顰めて宗盛に対して批判的な言葉を述べた。
「前回、維盛は富士川での戦いで一度負けているのだから違う者を指名するべきだった。適役がいないなら偶には自分でうって出ればいい。結局、戦いを恐れて誰かに押し付けているだけなんだ」
吐き捨てるように語る重衡の姿を見たのは初めてであるかもしれなかった。