あなたに捧ぐ潮風のうた
「珍しいな、お前がそんなことを言うなんて」
「……わたしにも偶には乱暴な気持ちになる時もある」
通盛の指摘に、重衡は表情を微かに緩めて俯いた。
「……最近、どこから平家は間違ってしまったのかと考えるよ。考えて考えて……あの時、南都を焼いたからじゃないのかと思うようになった。平家は神仏の怒りを買ったのだろうと……」
暗い表情で語る重衡は、自分の行いを悔いているようだった。
南都焼討。それは通盛の心にも重石となっている出来事だ。
そうなってしまった事実は消しようもなく、平家は仏敵である事実も変わらない。だが、それを悔いてばかりもいても前には進めない。変えられるのは、自分がその事実とどう向き合うかということだけだ。
「あれは叔父上の命令だった。南都の者たちは自分たちの意向を汲まない平家を敵視して打倒しようと目論んだ勢力だ。仏像まで焼けてしまったのは風が強かったせいだ」
「だから仕方ないと?」
「そうだ。必要なことだった。重衡、割り切るんだ」
通盛は彼の肩に手を置き、重衡に言い聞かせた。
しかし、重衡は曖昧に微笑み、通盛の手を優しく振り払うばかりだった。
「君のように心が強ければと思うよ。君はわたしや維盛とは……違う」