あなたに捧ぐ潮風のうた
時は無常に過ぎていく。
義仲は、平家に勝利した勢いそのままに北陸から攻め上がり、美濃や近江の荒々しい反平家の武士を従え、入京を試みた。
最早、義仲の軍勢は北陸で平家と相対した時とは異なり、五万騎の数にまで膨れ上がっているとのことだった。
平家はそれを阻止すべく兵を向かわせたが、既に兵の大半を失っていた平家は悉く敗北し、義仲の都入りは目前に迫っていた。
最近では反平家を隠そうともしない後白河法皇は、荒々しい義仲軍の入京に口では反対しながらも、それ以上は何も言わない。
これまで平家の陰で日の目を見なかった貴族たちも同様に、平家を庇う者たちはいない。仏門の者も相違なかった。
平家一門は、とうとう戦いの末に玉砕するか、都から逃れるか、二つに一つの決断をしなければならない段階に入っていた。
そして、平家が下した決断は「西に逃げること」。
しかし、平家もただで逃れるつもりなど無かった。
安徳天皇と三種の神器や様々な国宝を奉じて逃げ、平家の影響力がまだ健在である西で再起を図るというものだった。