あなたに捧ぐ潮風のうた
平家一行は今は儚き夢の跡、福原御所の様子を見て回った。
清盛が夢見た栄華、福原京。日の目を見ずに終わってしまった御所は、まるで打ち捨てられた墓場のようで、夜風が吹き抜けると一層寂しげだった。
それから、一行は平家の別邸に身を寄せ、一晩を明かすことになった。
近頃は手入れもされず、潮風にさらされるばかりで家屋の傷みが激しかったが、一晩を明かすには十分すぎるほどだった。
小宰相らは門脇家の者たちと同じ邸宅で過ごすことになり、通盛と小宰相の夫婦には奥の部屋を与えられた。
「すまない、疲れただろう」
通盛は小宰相の背中を抱いて気遣ったが、小宰相は笑顔で首を振った。
「いいえ。初めてこの目で福原と海を見ることができました。完成していたら此処が都になっていたのかと思うと、とても興味深く思います」
「……今の都と比べるまでもなく不便で手狭な場所だ。だから遷都に時間が掛かって失敗したとも言える。唯一良いところと言えば海が近いところだ。……こんな形で貴女に見せることになるとは思わなかったけれど」
通盛はため息をついて部屋から外に視線をやった。小宰相もつられるように外を見るが、月明かりもなく真っ暗で何も見えない。
さざ波の音が微かに風に乗って聞こえてくるばかりだ。
「明朝には日の出とともに船で此処を発つことになる。しばらくは船旅だから今夜は早めに休もう」
通盛はそう言って小宰相の柔らかな頰にそっと口付けを落とした。