あなたに捧ぐ潮風のうた
通盛を待つ時間は長かった。
日が暮れて、今か今かと帰りを待つ。
予想通り、敵と遭遇しただろうか。勝敗は決しただろうか。通盛は無事だろうか。
その時、海の方から誰かの叫ぶような遠い声がした。
小宰相は息を呑んだ。
平家軍が帰ってきた可能性もあるが、敵が平家軍を打ち破って屋島に至った可能性も否めない。
じっと耳をすませていると、その声が次第に近付いてきて、聞き取れるほどに大きくなった。
それは勝利を叫ぶ平家の鬨の声だった。
(平家の、勝利……)
それを知って一先ずほっと胸を撫で下ろした。
しかし、たとえ平家が勝ったとしても、通盛が無事でなくては小宰相にとっては何の意味もない。
小宰相が早く確認をしたいと思って思わず立ち上がると、そこに突然顔を覗かせた男がいた。
驚いて思わず声を上げる小宰相だったが、それの男が誰よりも帰りを待ちわびた人だと気付いた瞬間、膝から力が抜けるのが分かった。
「……通盛様……ご無事で良かった」
その男は大鎧姿のまま悪戯をする子供のような笑顔を浮かべ、「信じていなかったのか」と笑いながら、崩れ落ちそうになる小宰相を片腕で支えた。