あなたに捧ぐ潮風のうた
小宰相は福原に向かう船の途中、切りつけるような冬の風の冷たさに身を震わせ、同時に体に籠る熱っぽさや鈍い頭の痛みも感じる居心地の悪さを覚えた。
急に襲ってきた感覚に自分で戸惑っていると、隣に座っていた呉葉が「姫様、寒いのですか」と小宰相の震える背中に手をやった。
「大丈夫よ」
小宰相はそう答えて自分の身を抱いた。
久しぶりの船旅であるから体が慣れないのだろう。
福原について陸に上がれば元に戻るはずだと思い、それ以上は考えなかった。
「それにしても……呉葉、貴女と義則は親子そろっていつまでも『姫様』なのね」
小宰相はくすりと笑って呉葉をからかうと、呉葉は焦った様子で取って付けたように「北の方様」と呼びなおした。
あまりにも慌てた様子であるため、小宰相は「言ってみただけよ。『姫様』のままでいいの」と首を振った。
乳母にとってはいつまでも姫のままなのだろう。恥ずかしい気持ちもしたが、嬉しくもあった。
彼女にとっては平家と命運を共にすることは辛いことだろうに、変わらずいつもそばで我が子のように愛してくれているのは、なんとも有り難いばかりだ。
早く福原につかないだろうか、と小宰相は手持ち無沙汰に思っていると、波に揺られながら次第に眠気を感じて目を瞑った。