あなたに捧ぐ潮風のうた
福原に着くと、平家の者たちは敵を警戒しながら陸に降りた。
安徳天皇や建礼門院など、平家の要となる存在はほとんどの時間を海上で過ごし、周囲を武士たちが固く守っている。
平家の妻や女房たちも、安全のために海上での生活を推奨された。
平家に与えられている時間は少ない。源氏同士の争いの決着がついたあとは、いよいよ平家追討軍が迫るであろう。
来る戦に備え、平家と平家に従う者は、一心に城郭を築いた。
西は一の谷、東は生田の森。北には険しい山が聳え、南には海がある。ここは屋島にも劣らない要塞となり得ると皆が口にした。そこに、更に城郭を囲むように堀を築き、騎馬の侵入を阻むための石垣、土のうを充分に設置し、海にも膨大な石を積み上げた。
城郭を築き上げる速さは恐るべきもので、平家がこれまで培ってきた力が発揮されていた。
全ては平家の勝利のために。
――すべての平家の者たちの心は一致していた。