あなたに捧ぐ潮風のうた
城郭が完成しつつあった一月の末。
義仲が頼朝に敗れたという旨が平家にも届いた。それと同時に、後白河院は頼朝に対して平家追討および神器の奪還を命じる院宣を下したということも平家の耳に入った。
とうとう戦になるのだと人々は囁き合い、男たちは休む暇もなく、戦の準備を一層推し進めた。
平家軍は四国を中心に西海沿岸で勢力を広げ、源氏の平家追討軍に対抗できるだけの力を密かに蓄えつつあり、数千まで落ちていた平家軍の力は今や万を超える数になった。
平家の者達は希望を捨てず、協力し合いながら前を見つめた。
海上にあった小宰相は、ふと自身の体調の優れなさと共に、月のものが未だに来ていないことに気付いた。
今までこのようなことは一度もなかったのに、と憂鬱な気分になりつつ、いつから来ていないのかと考えていると、はっと思い当たることがあって、口元を押さえた。
(まさか……)
小宰相は慌てて隣にいた呉葉に語った。
すると、呉葉は目を見開いて、小宰相の腹に目をやった。薄い腹には何の変化もないが、二人とも思い当たることは一つしかない。
通盛の子を孕んだ。
小宰相は何か確信めいた予感があった。
このところ、小宰相は通盛とほとんど会っていない。
通盛に限らず、他の戦に加わらない義則や船頭、侍従といった男たちも同様に、一日のほとんどの時間を次の戦に向けた準備の時間に使っているためだ。
通盛は大将の一人として、弟の教経と共に陣を敷き、北の山手側の防衛を務めることになっていると聞いている。
(通盛様は喜んでくださるかしら……)
今の彼はそのような場合ではないだろうと思いつつも、通盛に会って話したいという思いがあった。