あなたに捧ぐ潮風のうた
二月に入り、城郭はすでに完成し、戦準備はほとんど整ったと言って差し支えないようだった。
夜、小宰相は小舟でやってきた伝令から、陸に上がるようにと言われた。どうやら通盛が小宰相を密かに呼んだようで、通盛に会いたいと思っていた小宰相は呉葉に伝えてすぐに小船に乗った。
陸の間近まで行くと、通盛が海辺に佇んでこちらを見つめているのが暗闇の中でもうっすらと見えた。
久しぶり見た夫の姿に小宰相は胸を高鳴らせていた。
「じっとしていて」
その言葉と共に、小宰相は船の中から通盛に軽々と抱き上げられていた。
突然のことに驚いていると、「ここあたりは足元に石があるから危ないんだ」と笑う気配と温もりがすぐ近くに感じられた。
陸に着き、小宰相はそっと浜辺に下された。
「急に呼び寄せて悪かった。驚いただろう」
会いたかった。
会えなかった。
やっと目の前に会いたかった人がいる。
「……通盛様……」
小宰相は思わず鼻の奥がしくしくと痛んだ。
溢れんばかりの気持ちが込み上げて、堪えきれずに通盛に抱きついた。
「……すまない、孝子。貴女に随分と心細い思いをさせているね」
小宰相の震える体を抱きしめ返した通盛は、そっと小宰相の髪を撫でた。