あなたに捧ぐ潮風のうた
「誰が敵でも、貴女のためにきっと勝ってみせる。これ以上、貴女に不安を掛けたくない。勝って、貴女の元に必ず帰る。そのために出来ることは全てやった。だから、信じて待っていて」
涙に濡れる瞳で通盛を見た。
彼は「いつも約束を違えずに貴女の元に帰ってきただろう?」と小さく笑い、小宰相の目尻の涙をそっと拭った。
「……信じます」
小宰相は涙を堪え、通盛を見上げて頷く。
その言葉を信じるしかない。小宰相にはそれくらいしか出来ることはない。
それでも、もう不安と恐怖と共に彼の帰りを待つのは嫌だと心の中で強く思った。
小宰相は背伸びをして自分から通盛に口付けた。自分からしたのは初めてだった。慌てた様子で「孝子っ」と上擦った声を上げる通盛の様子が新鮮で、小宰相はくすくす笑った。
必ず帰ってきてほしい、その思いを込めて小宰相は例のことを伝えることにした。
「あ、あの、通盛様……。わたくし、貴方の子が出来ました。だから、どうか無事に戻ってきてください」
……その時の通盛の顔は絵に描きたいほどだった。驚きのあまり言葉を失っているのだろう、魂抜けしたように惚けた顔をしていたが、にわかに満面の笑みを浮かべて「ああ……!」と万感こもった声を上げて小宰相をそっと抱きしめた。
「……驚いた。いつかは、と思っていたけど、まさから今日それを知れるなんて……。なんということだ、本当に嬉しい……ありがとう」
通盛は「体は大丈夫か」と細々と尋ねて小宰相の海上の生活を労った。
とても幸せな気持ちになって、小宰相は「はい」と微笑んだ。