あなたに捧ぐ潮風のうた
「義則さま。孝子と申します。お初にお目にかかります」
「……敬称は不要です。義則とお呼びください」
そう言う義則の声は少々高めで涼やかな声だった。
「では、義則と」
そう呼びかけると義則は頷いた。
そして、何故か彼は唐突に言葉を失うような質問をしてきた。
「旦那様と不仲というのは本当でしょうか」
その言葉に孝子は表情を消した。
──そのような発言をする義則の意図とは。
悪びれる様子もない息子を見た呉葉は、立ち上がって入り口に佇む彼にゆっくりと近付いていく。
ちらりと見えた横顔は恐ろしい母の顔をしていた。
「義則、言葉を慎みなさい」
呉葉の威圧感に押されたのか、義則は半歩後ろに下がる。険しい表情の仮面が僅かに外れていた。