あなたに捧ぐ潮風のうた
通盛は自分が信頼されているとは思わなかった。ただ、門脇家嫡男という立場ゆえに軍を率いる立場に押し込まれただけだと分かっている。
それでも、命懸けで戦ってきた。
時には、敵の矢に射抜かれた味方を置いて山野を駆け抜け、北陸から逃げざるを得なかったこともある。
そうしなければ、命があまりに軽い戦場では生き残れなかった。
今や通盛の命は自分だけのものではない。愛しい妻とその腹に宿る命のために、何としてでも必ず無事に帰らなければならない。
そう強く決意をしているところ、山の手の陣に「敵襲!」という緊張した声が響き渡り、厳しい表情をした兵たちが一斉に刀や弓を手に取って立ち上がる。声のした方に駆けていく者もいた。
とうとうこの山の手の陣にも敵が来たのだ。
通盛は息を潜め、辺りの様子を窺った。音はまだ遠いが、後ろの山側からではない。挟撃に遭う可能性は無いと判断して、通盛は兵を迎撃に向かわせる。
「菊王丸、来い!」
「はい!」
自身も迎撃に向かうために駆けた。