あなたに捧ぐ潮風のうた
このような狭く薄暗い場所で一生を終える女として生まれて生きることよりも、ずっと楽しいことが外の世界にはあるのではないかと思っていた。
書物に出てくる男たちのように、海を渡り、学識を高め、ありとあらゆる物をおのが目で見たいという思いが胸の奥に燻っていた。
とはいえ、先日、孝子は成人の儀である裳着を終えたところであり、大人の女の仲間入りを果たしている。
いつまでも子供のようなことを言っていられないのは孝子も理解しているところだ。
弾かれた弦の音は、孝子の周りだけで虚しく響く。
その音をさらうように、部屋の中に冬の気配を孕んだ秋風が吹き抜け、庭で宙を舞っていた数枚の紅の葉が風に乗って孝子のもとにやってきた。
屋敷の外は秋だった。
その時、
「孝子!」
と彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。