あなたに捧ぐ潮風のうた


 今まで離れて暮らしていた時間を埋めるように、二人は少しずつ言葉を交わした。

「兄様は、お寺で学んでいたと仰いましたね。どのようなことをなさっていたのですか」

「修行です。仏の教えを学びます。他にも掃除や読み書き、必要な知識を学んでいました」

 孝子は目を輝かせた。

 異国のことを記した書物のように、屋敷に閉じ込められている孝子にとって、自分の知らない世界と触れられることが何よりの喜びだった。

「必要な知識とは?」

「例えば、宮中の決まり事や朝廷の仕組み、隣国にまつわる事柄です。俺のように寺に預けられた子供は、出家した世捨て人とは違い、寧ろ世俗のことを学びます。武芸も僧衆から少し習いました」

 孝子は興味深く聞いていた。

「随分と学ぶ環境が整っていますね」

「はい。憲方様が援助してくださったこともあり、学ぶことに不自由はありませんでしたので」

「……そう、父上様が」

 父憲方は子供の教育に余念がない。

 自分の子供はもちろん、将来が有望であれば、郎党の子供にも高い教養を与える。

「父上様は貴方に期待しているのでしょう」

「全力でご期待に添えるよう努力します」

 迷いのない目が孝子を真っ直ぐ見つめた。
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