あなたに捧ぐ潮風のうた
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それから間もなくして、遂に孝子が女房として初めて女院御所に出仕する日がやってきた。
都は朝日と共に目覚めを迎える。
この日、憲方の屋敷では、まだ日が昇らぬうちから孝子の参内の準備に追われていた。
当の孝子は、侍女と呉葉によって身支度を整えられているところだ。
豪華絢爛な女房装束に、これもまた上品な扇を身に着けると、最後に、顔に白粉を厚塗りされ、眉墨を塗られる。笑うと、白粉がひび割れ、剥がれ落ちそうだ。
自分の顔を隅から隅までいじられて無性に痒さを覚えた孝子は、口を閉ざしてはいたが、この上ない不快感に身悶えていた。
「姫様。全ての準備が整いました。さあ、参りましょう」
呉葉や侍女に促されながらゆっくりと上体を起こし、彼女らを引き連れて部屋を後にした。
庭では、いつかのように風に乗った紅葉が宙を彩っており、不安と緊張に翳る孝子の心を僅かながら慰めていた。
徐々に色を失い、無味乾燥した冬の影がすぐそこまで忍び寄っている。
孝子は身を震わせながらも、期待に胸を膨らませていた。
騒がしい心の臓を鎮めようと胸に手を当て、大きく息を吸い込む。
冬の匂いを確かに含んだ冷たい風が吹くと、その風に乗ってどこからともなく笛の音が聞こえてくる。