あなたに捧ぐ潮風のうた






 上西門院の御所には、老若男女、誰もが口を揃えて「宮中一の美姫」と言う女房がいる。

 ──彼女の名前は、小宰相。

 その美貌はもちろん、気立てが良く、聡明であると評判の彼女は、様々な青年貴族たちから恋文を寄せられている。

 だが、彼女は彼らの誘い文句に乗ることはなかった。

 中々振り返らない高嶺の花は、更に男たちの恋情を煽り、誰が小宰相を落とすのかという賭けすら行われたほどだ。

 彼女は上西門院の女房として日々を送った。

 様々な書物を読み、他の女房たちから和歌や楽器を習った。

 それだけでなく、自分の目で平安京を見たり、上西門院の供で様々な催事に参加したりして見聞を広めた。

 そして三年後の治承三(1179)年、季節は桜が満開になり、生き物が眠りから覚める春となった。



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