あなたに捧ぐ潮風のうた


「重衡、さすがに親王殿下にそれは……」

「いいじゃないか。わたしが中将になってから親王殿下にお会いできる時間が取れなかったんだ。そうでしょう、殿下?」

 言仁親王の虜となっている重衡には、通盛の言葉は届かなかった。

 中宮徳子も苦笑するだけで何も言わない。

 重衡には不思議な魅力があり、誰もが彼を好ましく思う。

 彼の明るく周りを和ませる行動がそうさせるのだろう。他の者たちも微笑ましそうに彼らを見つめている。

 そのうち、通盛も言仁親王を見つめ、無意識に表情を緩めた。

 しばし、幼子の愛らしさに癒されていたが、突然通盛の脳裏に父教盛のしかめ面が過ぎり、気持ちがにわかに沈む。

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