あなたに捧ぐ潮風のうた

 そして、いつのも無邪気な笑顔とは異なる、人を惑わす悪い顔で、通盛の耳元で小さく囁いた。

「別に愛していないよ。好ましいと思っているのだからそれで十分だろう」

 通盛は思わず身を引いた。あまりに正直な答えが恐ろしかったからだ。

 重衡はさらに続けた。

「自分の血を分けた子供は愛せる。それに、陛下と中宮様は政略結婚でも相思相愛だ。愛せるか愛せないかなんて、試してみなければ分からないじゃないか」

「婚姻は試すものじゃない」

 奔放で軽薄な従弟に苦々しい思いを抱きながら、彼から顔を背けた。

 清盛の五男である従弟とは違い、自分は門脇家の嫡男だ。中途半端は許されないことは分かっていた。

「まあ、真面目過ぎる君が、いつか激しい恋に狂う様も見てみたいとは思う」

 くすりと笑う重衡は、いつの間にか人好きのする眩しい表情に戻っていた。

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