あなたに捧ぐ潮風のうた
叔父の清盛が病気に罹ったことをきっかけに出家して福原に拠点を移してから、十余年が経過した。
清盛は表向きには嫡男の重盛に平家棟梁の地位を譲り、今は仏道修行に励んでいる。
また、清盛は神道にも帰依しており、西国に厳島神社を建てることでその場所の武士らの信頼を勝ち得た。
更に摂津にある大輪田泊(おおわだのとまり)という港を整備することで、南宋との貿易を始め、力を得た。
清盛は病気とは思えぬほど精力的に活動していることを上西門院に伝えると、彼女は「あの方は、天より政(まつりごと)の才能と運気を与えられていらっしゃる」と小さく微笑んだ。
天より与えられし政の才能と運気──。
確かに言い得て妙だ。
たった一代で平家に繁栄と栄華をもたらした清盛は、前世が余程の善行を積んだ高僧だったのだろうと人々は噂している。
彼はときに乱暴で強欲だが、強き者を挫き、弱き者に優しい。一門を何よりも大切に思っており、その一門を纏め率いる能力がある。
清盛の存在とは、平家一門の精神的支柱である。