あなたに捧ぐ潮風のうた
「あちらの桜は差し込む日差しが大変美しい。通盛、時間はあるか。年寄りのわらわで良ければ、共に花見に興じよう」
上西門院の言葉に通盛は我に返った。
女院の光栄な誘いに、通盛は息を呑む。
まさか、自分が花見の供に誘われるとは思わなかったのだ。
通盛は、
「是非ともご一緒させて頂きたく存じます」
と微笑みつつ、通盛は和歌を一首詠む。
”歳を取るといっても、「今」と思って見る桜こそが、いつかの名桜よりも美しいのですよ”
貴女様はご自身を年寄りと言うけれども、たとえ若かりし上西門院がどれほど美しくても、今の美貌には叶うまい。なぜなら、今目の前にいる人の美しさで過去は霞んでしまうから……。
──そのような意味だ。