あなたに捧ぐ潮風のうた
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世に浄土の景色をもたらした桜は儚くも散ってしまった頃。
人々の嘆きは置き去りに若緑が輝く五月がやってきた。
宮中では五月三日から五日まで開かれる年中行事である端午の節句が始まっている。
平家の者たちも屋敷内で端午の節句の準備が行われていた。
門脇家の屋敷において、通盛が自分が治める土地の管理者宛に文をしたためているとき、脇から控えめな声が掛けられた。
「通盛様。これを渡すようにと承りました」
菊王丸が通盛に差し出したのは菖蒲(しょうぶ)の葉の飾りだった。
菖蒲は邪気を祓うとされ、端午の節句では煎じ薬として服用されたり、家の周りに撒かれたりしている。
そして、宮中に出仕する際には冠に菖蒲を付けるという習わしがある。
通盛は筆を置くと、それを受け取って冠につけた。
「よくお似合いです」
菊王丸の賛辞に通盛は微かに笑みを浮かべた。
毎年のことながら、これをつけると心が浄化されたかのように穏やかな気分になるのだから不思議なものだ。
これも菖蒲のお陰だろうか。