あなたに捧ぐ潮風のうた
通盛は、おもむろに紙を取り、筆をとってたった今思いついた和歌を書き付ける。
そして、直ぐに結んで机の上に紙を置いた。
主の様子に菊王丸は首を傾げた。
「それは?」
「和歌だよ」
通盛の口元に小さな笑みが浮かんだ。
これは、花のように輝く、愛らしい姫君に送る手紙だ。
初めて会った日からひと月が経つが、未だに返事はない。相手にされていないというのが最近になって分かり始めてきたところだ。
しかし、通盛は諦める訳でもなく、不思議と穏やかな気持ちで文を送り続けていた。
後になって知ったのだが、彼女──小宰相は宮中一の美姫と言われる女房だという。
そのような人に自分のような冴えない者は相応しくないということを、自分でも理解しているからかもしれない。
恋と呼ぶのにはまだ過ぎる不安定な気持ちは、ふわりと風で形を変える雲のようだ。