あなたに捧ぐ潮風のうた
無理もない。
上西門院とは、後白河法皇(ごしらかわほうおう)の姉であり、彼が最も信頼を寄せる女性だ。
生まれながらの天皇家の御人にして、高潔な内親王というわけだ。
呉葉は「姫様、よろしゅうございましたね」と満面の笑みを浮かべ、喜びを露わにした。
上西門院はたいそう和歌を読むことに秀でており、気品と威厳を併せ持つ女性であると聞く。
現在は五十の齢であるが、彼女が統子(むねこ)という名の内親王であった頃は、当時最も美しい女性としてその名を都中に馳せた。
その上西門院に、女房として仕えることになったことを理解した瞬間、孝子は思わず口元を抑えた。
「まことに……わたくしが上西門院様にお仕えするのですか」
「このようなこと、嘘など吐けるはずがなかろう。知り合いの妻が女院様に仕えていて話をしてくれたのだ」