あなたに捧ぐ潮風のうた


 身に余る光栄を噛み締めた孝子であったが、喜びと同時に不安を感じ始めた孝子は、床に目を落として視線をさ迷わせた。

 父は娘が喜ぶとばかり思っていたのだろう、孝子の様子を不思議そうに見つめる。

「何だ。嬉しくなさそうだな」

「いいえ。しかしながら……わたくしが上西門院様にお仕えできるとはとても……」

 孝子は俯いた。

 名誉なことなのは承知しているが、女房というものは主人にただ仕えるばかりでなく、豊かな教養が求められる。

 そのため、身分と教養を併せ持つ貴族の女性が任じられることがほとんどである。

 いよいよ琵琶が嫌いなどと言っている場合ではなくなったようである。

 抱えていた琵琶の重さが増したように感じられた。

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