あなたに捧ぐ潮風のうた

 通盛に立ち聞きの趣味は無いので自分の部屋に戻ると、そこに険しい顔をした弟が待ち構えていた。

 通盛は苦笑しつつ、彼に座るよう促す。

「兄上、宗盛殿がいらしていましたね」

(気難しい表情をしていると思ったら、やはりそのことか)

 教経は宗盛のことを好ましく思っていないらしい。

 外見からして鍛えた弟と背が低くふくよかな宗盛は違いが際立つ。

 性格も馬が合わないのだという。

 今の平家一門にとっては、武人のような教経の方が異端だとも言えるが──。

「ああ。父上にお話があるとか。──ところで、菊王の弓の腕はどうだ?」

 さりげなく話題を変えてみると、教経の険しい顔が変化した。

 悔しそうでいて、少し楽しげである。 

 通盛は普段からあまり笑わない弟の変化に驚いた。

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