あなたに捧ぐ潮風のうた
小宰相は、流麗な筆跡で書かれた通盛の恋文を見る。
文に焚き染められた微かな薫りは彼の二つ名の花だ。
夜の闇に染まる前の静かな空のようなその色は上品で清廉である。
誠実な彼に相応しいように見えるが──。
(通盛様……わたくしの知る貴方様は、果たして本物かしら)
それは、純粋な疑問だった。
──菖蒲には毒があるのだから。
(……人も花も、見かけによらない。見かけで判断されることがあってはいけないのよ。それは、通盛様もわたくしも同じこと)
小宰相は小さなため息を吐き、文を折り畳んで侍女が差し出した文箱に入れた。
その女房がもの言いたげな目をしていたが、小宰相は気づかぬ振りをして、蓋をしてしまっておくように、と言い付けた。